46歳の美香は、ひきこもりの息子、30歳の健太を持つ母親だった。彼は大学を卒業して以来、自分の道を見失い、10年もの間、実家に閉じこもっていた。美香は毎日、出社する夫の弘樹と共に健太のことを心配していたが、どう接してよいか分からない日々が続いていた。

ある日、友人とのお茶の席で、別の母親が「手出し口出しせず、見守る」重要性について話してくれた。美香はその言葉に深く感銘を受けた。「これが健太に必要なサポートだ」と思った彼女は、心の中で新たな決意を固めた。

翌日、健太の部屋の前で、美香はそっと声をかけることにした。「健太、今日は特に何も言わないから、自分の好きなことをしてみてね」とだけ伝えた。最初は無言の抵抗を見せ、そのままドアの向こうで静かにしていたが、美香はそのまま何もせず、彼を見守っていた。

数日後、美香は自分の想に反して健太が部屋から出てくる姿を見守ることが多くなった。そして、彼が再び自分の趣味について考え始めた様子を目にすることができた。美香は心を満たされ、「彼はこのままでいい」と許す気持ちを強めていた。

健太がある日、自室から出てきてテーブルに座った時、彼女はそっと彼に言った。「何かしてみたいことがあれば、いつでも話してね。私たちはあなたの選択を支えています」。その言葉に、健太の目に少し光が戻るのを感じた。少しずつ健太は、自分自身の興味や喜びを取り戻し、家族と共に新しいスタートを切ることができるかもしれないという期待感に包まれていた。

美香の心もまた、深い愛情を持って健太を見守ることで、彼自身を支えられるという自信に満ちていった。この「それでいい」という選択が、家族全体に新たな道を示すものであることを彼女は感じていた。