30歳の光一は、両親の元で10年間ひきこもりの生活を送っていた。彼の母、佳乃はパートで働き、父、健一は勤め先の会社が多忙を極めている中、家に帰るとただ疲れ果てていた。光一の状況は二人にとっての悩みの種であったが、向き合うことを避ける日々が続いていた。
佳乃は、毎日家事に追われながらも、心の中で「何とかしてあげなきゃ」と焦りを感じていた。しかし、実際には光一に対し、どう接すれば良いのかが分からなかった。そんな毎日、心の中のモヤモヤは膨れ上がる一方だった。
一方、健一は仕事から帰ると、どうしても光一に「働くべきだ」と言いたくなってしまう。しかし、その言葉が逆効果になることはわかっていた。二人は互いに暗黙の了解をくぐり抜け、家の中は静かな避けられた空間を作っていた。
ある日、佳乃は友人と話している時、親自身が変わることが大切だと言われた。「肩の力を抜いて、まずは自分がリラックスすることだよ」と。聞いた瞬間、心の中ではその通りだと思いつつ、実践することができなかった。
この考えを実行することができないまま、佳乃は引き続き光一に何とかしてほしいと強く思っていた。しかし、何も行動を起こさなければ状況は変わらないことを、心のどこかで理解していた。
ある晩、佳乃が光一の部屋の前を通りかかると、急に苛立ちが沸き上がり、「いつまでこんな生活を続けるの!」と叫んでしまった。しかし、光一から返ってきたのは一言もなかった。佳乃はその場で悔しさに声も出ず、ドアを閉じて自分の部屋に戻った。
その後も佳乃は、変わることができずにいる自分への苛立ちを抱え続けた。結局、家族の間には見えない壁が厚くなり、光一の心はまたしても閉ざされ、何も変わらない日々が続いていた。
佳乃も健一も、愛情を持ちながらも「変わる勇気」を持てなかったために、光一との関係はますます深い孤独に包まれていくこととなった。やがて、無力感に包まれ、お互いがそれぞれに思うことが温かさを失い、冷たい距離が生まれてしまったのだった。
