33歳の拓海は、無職のまま自室で引きこもり続けていた。両親の直樹と陽子は、彼を心配しながらも、どう接したらよいか分からずにいた。「どうしてもっと外に出ないの?」そう言いたい気持ちをこらえ、彼らは無言の生活を続けるしかなかった。

直樹は、自分の仕事が終わるといつも不安を抱えた心で帰宅し、拓海のことを見ないふりをしてしまう。「仕事をしていないなんて甘えだ」と思い、状況が結局悪化していることに気がつかない。陽子は「子どもを支えてあげないと」と心を締め付けながらも、彼をどうにかしようとして小言を言ってしまうことが多かった。

ある夜、拓海の部屋の前で陽子は緊張しながら「拓海、何かしたいことがあったら教えてね」と声をかけた。しかし、返事はなかった。陽子は何度も声をかけてみたが、反応は芳しくなく、挫折感ばかり増していく。拓海は自分の状況を理解し、助けを求めることに対する恐れが根付いてしまっていた。

直樹もまた、毎日のストレスからくる圧力で、拓海のやりたいことや挑戦については全く無関心でいた。「このままの状況をどうにかしなければ」と常に考えていたが、一歩踏み出す勇気は持てなかった。結局、家の中は一杯の緊張と気まずさに包まれ、会話がなくなる日々が続いていた。

やがて、拓海は部屋に引きこもることで孤独を深め、「何もできない」という心の声に完全に縛られてしまった。親は彼に対し、何も特別なことをしてあげることができず、その結果、拓海はいっそう沈み込んでしまった。手を差し伸べられることのない家族は、沈黙のまま状況が変わらず、互いの声がどこか遠いところに消えていくのだった。