30歳の泰輔は、10年間も無職として引きこもりの生活を続けていた。両親の誠司と美奈は、息子の状況にどう接すればよいか試行錯誤しながら、ただ日々を過ごしていた。彼らは子どもを特別扱いすることでなんとか彼を支えようとしていたが、それが逆に彼を孤独にしていることに気づいていなかった。
ある日、美奈は友人と話をしていると、「特別扱いしないことが大切だ」と指摘される。友人は、無理に甘やかすのではなく、家族全員が同じルールのもと生活することが、息子の自立の助けになると話した。美奈はその言葉にハッとした。
その晩、彼女は決意した。「明日からは、泰輔を特別扱いせず、私たちと同じ食事の時間を持つようにしよう」と。翌日の食事の時間、美奈は堂々と食卓を整え、何も特別なものは出さなかった。食事ができたことを告げるとき、美奈は冷静に言った。「今日は一緒に食事をします。」
泰輔は部屋のドアの向こうでその言葉を聞いた。「食事は自分の分だけ用意する」という従来の習慣から一歩踏み込んだ美奈の言葉を受けた時、心の中で感じるものがある。少しずつ食卓の方に足を運ぶと、家族の会話が自然に流れ始めた。
誠司もまた、美奈の行動を見て考え直し、「俺も参加する」と言いながら共に食卓に着いた。みんなが同じ食事を時間を合わせて取ることで、泰輔は「家族」としての温もりを再び感じることができた。特別扱いしないことで隠れていた彼の心の中に安らぎが芽生えた。
泰輔は少しずつ食事を楽しむことができ、会話している中で心の扉が開いていくのを感じた。美奈も誠司も、特別扱いしないことで家族の絆を再確認し、泰輔の自立をサポートする意義を実感した。こうして、新たな家庭の雰囲気が生まれつつあった。
