33歳の直樹は、無職として10年間、実家に引きこもっていた。両親の隆司と美紀は、日常生活を送りながらも、直樹との関わりが希薄になっていくのを感じていた。不断に続く静寂の中で、彼らもまた、どう接すればよいのか分からずにいた。

ある日、美紀は友人に「親自身が変わることが、子どもを支える第一歩」と聞き、その言葉が心に突き刺さった。彼女は自分自身を見つめ直すことを決意した。「このままでは、直樹の未来に何も変化をもたらさない」と、彼女は思ったのだ。

翌日、彼女は心の中で「小さな変化から始めよう」と決めた。まずは、直樹の好きな音楽を流しながらリビングでくつろいでみることにした。少しずつ明るい雰囲気を作り出すことが、彼にとっても心地よい環境になるかもしれないと感じた。

心をなごませる環境作りがスタートすると、直樹も居心地の良い空気に惹かれ、リビングに顔を出すようになった。その時、美紀はついに言葉をかけることができた。「もし気が向いたら、一緒に映画でも見ようか?」直樹は少し考えてから、頷いた。美紀の心に灯った希望は、直樹にとっても久しぶりの嬉しい瞬間だった。

隆司もまた、美紀の決意が家の雰囲気を変えたことに気づいた。彼も少しずつ直樹との接し方を改めるよう努力し始める。「お前はどんなことに興味があるんだ?」と自然に問いかけ、美紀と共に直樹に対して新たな興味を持つ中で、三人のコミュニケーションが増えていった。

日々の小さな変化が、次第に直樹の心に自信を与え、また新たな一歩を踏み出そうとするエネルギーを与えつつあった。美紀と隆司は、親として変わることの力を実感し、家族としての絆を深めていくことができた。