〈小説ひきこもる家族〉許すこと

3歳の洋介は、無職として10年間ひきこもりの生活を続けていた。両親の恵子と利明は、心の中で何とか彼を支えようと試行錯誤していたが、会話はまったくなかった。彼らの心には、期待と不安、そして他の誰にもわからない孤独感が渦巻いていた。

ある日のこと、恵子は友人と話していて、「許すこと」が大切だと聞かされた。友人は、子どもが社会から孤立してしまったとしても、「それでいい」と受け入れてあげることが、子どもを楽にさせる第一歩だと語った。その時、恵子は心の中で何かが変わるのを感じた。これまで、洋介に対して抱いていた「期待」や「不安」が、少しずつ薄れていく感覚を覚えた。

その夜、恵子は洋介の前に座り、彼に話しかけた。「洋介、これまで私たちのことを心配させていたかもしれないけど、あなたが何に対しても挑戦していなくても、私たちはあなたを受け入れるから。あなたはそのままのあなたでいていいのよ」恵子の言葉には、間違いなく優しさが込められていた。

洋介は一瞬、驚きの表情を浮かべた。彼の心の内側には、ふっと軽くなる感覚が訪れた。「それでいい」と言ってもらえたことで、自分を少し責めずに済みそうだと感じた。次の日、洋介は思い切って家の外に出ることを決意した。重い一歩だったが、その一歩を踏み出した洋介は、ようやくその世界に再び触れることができたのだった。

周囲はいつもの寒さを感じさせたが、彼は小さなカフェでコーヒーを飲み、静かな時間を楽しんだ。恵子は息子の変化を見て、「これが許すことの力なんだ」と心から確信した。

洋介が少しずつ社会に目を向け、自分の居場所を見つける姿は、家族に新たな希望をもたらした。恵子もまた、「許す」ということの意味を実感し、洋介との関係をより深めていくことができたのだ。