33歳の洋介は、再び引きこもりの生活を続けていた。10年前に無職となり、両親の恵子と利明の間にも静かすぎて、時折訪れる孤独な感情が横たわっている。家の中は緊張が満ち、洋介との会話は完全に途絶えていた。
利明は日々の仕事に追われ、帰宅しても息子の状況にどう接するか分からず、話しかける勇気を持てないでいた。一方、恵子は彼女自身の心の中で波立つ感情と戦っていたが、息子の現状に目を逸らしてしまった。「洋介が普通の生活を送れたら」と願っていたが、彼がひきこもっていることをどこかに隠したかったのだ。
「どうしてこんなことになってしまったんだろう」と恵子は毎日思考を巡らせながら、思い出したのは友人が教えてくれた許すことの重要性だったが、その実行に向けて一歩を踏み出すことができなかった。ただ、現実を否定したくなる気持ちばかりが強かった。
そんなある日、恵子は洋介の部屋の前を通りかかると、思わず足を止めた。部屋のドアの隙間から薄暗い光が漏れてきて、息子が再び閉じ込められていることを痛感した。「私たちは彼を許せない」と考えてみるが、彼女の心の中には「彼をどう支えていいかわからない」という答えが渦巻いていた。
利明もまた、洋介が何を考えているのか話すことを避け、心の中で苛立ちを膨らませていた。彼は経済的な安定が何より重要だと思い込んでおり、洋介に厳しく接することが「正しさ」だと信じていた。しかし、その堅苦しい思考の中で、洋介にとっての「家族」の存在はますます薄れていった。
親として喜びを共有することや、些細な成功を喜び合うことができないまま、3人の間には冷たい沈黙しか残っていなかった。恵子と利明は互いの不安や失望を抱え込んだまま、結局どちらも恵子の言葉に対して心を開けないままでいた。
そんな状態が続くうちに、洋介の心も閉ざされていき、家族からの距離感はますます広がってしまった。恵子と利明は、許しが持つ力を知りながらも、実行に移せず、次第に家の中の雰囲気は冷たくなっていった。
この家庭は、愛情を理解し合うことができず、「許す」ことを恐れ、一つの壁を乗り越えることができなかった。洋介はただ無言で部屋の中に閉じこもり、その心の扉はあまりにも重すぎて、誰も開けることができなかったのだ。
