「日常」に戻れない若者たちが抱える、目に見えないトラウマの正体
大人たちにとって、2020年は「ずいぶん前の出来事」かもしれません。街には活気が戻り、マスクを外して笑い合い、私たちはすっかり「日常」を取り戻したかのように見えます。
しかし、今の大学生、20歳前後の若者たちの内面はどうでしょうか。 彼らの時計は、あの2020年3月2日、全国一斉臨時休校が宣言されたあの日から、ある意味で「止まったまま」あるいは「歪んだまま」進んでいるのです。
なぜ、わが子は大学に行けなくなったのか。 なぜ、あんなにコミュニケーションを怖がるのか。 それは単なる「性格」や「甘え」の問題ではありません。教育史上、類を見ない「対人スキルの空白期間」を強制的に体験させられた世代特有の、深刻な脳と心のダメージなのです。
今日は、コロナ禍が彼らに与えた3つの決定的な影響と、その「作り直し」に必要な視点について深掘りします。
1. 「心の体力」がガリガリに削り取られた
まず、最も深刻なのが「対人関係における持久力(心の体力)」の欠如です。
私たちは通常、学校生活という集団の中で、相手の微妙な表情の変化、声のトーン、その場の空気感などを、無意識に、そして膨大な数、読み取り続けています。これによって「この人は怒っているけれど、本気じゃないな」とか「今はこれ以上踏み込まないほうがいいな」といった、繊細なコミュニケーションスキルが育まれます。
しかし、コロナ禍の彼らはどうだったでしょうか。
- マスクによる表情の隠蔽: 相手の顔の半分が見えない状況は、脳にとって膨大なストレスです。感情が読み取れない不安から、常に警戒モードを解けなくなりました。
- オンライン授業の表層性: 画面越しの繋がりには、その場の「熱量」や「匂い」がありません。非言語情報のやり取りが遮断された結果、人間関係の構築スキルを練習する機会を、まるごと奪われてしまったのです。
結果として、今の大学生は「人と対面するだけで、大人が1日働くのと同等、あるいはそれ以上のエネルギーを消費する」ほど、心の体力が枯渇しています。
2. 「どうせ頑張っても無駄」という思考のバグ
次に、彼らの意欲を奪っているのが「学習性無力感」に似た思考のクセです。
彼らは、人生で最も輝かしいはずの数年間、あらゆる「楽しみ」を理不尽に奪われ続けました。
- 一生に一度の修学旅行が中止。
- 3年間の集大成である部活動の大会が消滅。
- 文化祭も、体育祭も、ただの「密を避けた形式的な行事」へ。
「楽しみに準備していても、最後は奪われる」。この経験が繰り返された結果、彼らの脳には「期待するだけ無駄」「頑張っても報われない」「それなら最初からやらないほうがマシ」という強力なブレーキが刻み込まれました。
また、失敗を極端に嫌い、「確実に得すること」や「効率的なこと」しかやりたがらない傾向も強まっています。これは「もうこれ以上、損をしたくない」という悲痛な防衛本能なのです。
3. 「心は中学生、体は大人」のアイデンティティ形成不全
人間が「自分は何者か」というアイデンティティを確立するのは、主に中学・高校時代の、他者との激しい「摩擦」を通じてです。喧嘩をし、仲直りし、誰かに憧れ、誰かに嫉妬する。このドロドロとした人間関係の摩擦熱こそが、自己形成のエネルギーになります。
しかし、コロナ禍はこの「摩擦」を完全に除去してしまいました。 「ソーシャルディスタンス」という言葉は、身体的な距離だけでなく、心の距離も固定してしまったのです。
結果として、今の若者たちは、アイデンティティが形成されないまま、体だけが大人になってしまいました。 集団の中での自分の立ち位置が分からず、摩擦を怖がり、「一人のほうが楽だ」と殻に閉じこもる。これは、彼らが未熟なのではなく、「自分を作るための材料(他者との衝突経験)」を物理的に奪われた結果なのです。
4. この影響を乗り越えるために必要なこと
もちろん、同じコロナ禍を経験しても、スムーズに社会へ出ている子どももいます。 その違いは、「コロナ以前の育ち方」にあります。
もともと対人スキルに自信がなかったり、感受性が強かったりした子が、コロナ禍という特殊な環境で、その課題が「開花」してしまった。それが今のひきこもりや不登校の正体です。
今、私たちがすべきことは、彼らを責めることではありません。 「空白の3年間」を、今からどうやって埋め、アイデンティティを作り直していくか。
彼らには、「安心して失敗できる場」と、「もう一度、人間関係の練習をするための安全な土台」が必要です。
お母さん、お父さんが、この「背景にある深刻な理由」を理解するだけで、彼らにかける言葉は変わります。 「甘え」だと思っていたものが、「深刻なスキルの欠損」だと分かれば、一緒にその穴を埋めていくパートナーになれるはずです。
5. まとめ:自分を、そして子どもを作り直す
2020年は終わっていません。今の若者たちの心の中で、それは今も続いているのです。 でも、悲観しないでください。 脳は、何歳からでも作り直すことができます。 空白を埋めるのは、今からでも間に合います。
まずは、お母さん自身がこの問題の本質を「学ぶ」ことから始めてください。 あなたが気づけば、家庭という環境が変わり、子どもの未来は必ず動き出します。

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