33歳の達也は、実家で10年間もひきこもりの生活を送っていた。彼の両親、真司と理恵は、その状況に対する焦りや不安を抱えながらも、何をどうすればよいのかわからず、ただ日々を過ごしていた。毎日の食事の時間も、会話はなく、ただ空しい沈黙が広がる一方だった。

ある日、理恵は友人とのランチで、「子どもが何を考えているのかを知りたいなら、ただ耳を傾ければいいの」と言われた。友人はそれが家族の信頼を構築する第一歩だと語った。その言葉に理恵は感動し、自分もやってみようと決心した。

帰宅した理恵は、達也の部屋の前で深呼吸をした。心の中の不安を取り払うために、ただ「そうなのね」と彼の話を聞いてみることにした。「達也、今日は何か話したいことがあったら聞くよ」と声をかけた。

最初は沈黙が続いたが、達也は少しずつ心を開き始めた。「最近、外に出たいと思うけど、なかなか勇気が出ない」と、彼は言った。理恵はすぐにアドバイスをするのではなく、「そうなのね、無理せず徐々に出られるといいね」とだけ返すことにした。

その何気ない反応が、達也の心に深く響いた。理恵があたたかく彼の話を受け止めてくれることで、達也は少しずつ自分の気持ちを整理できるようになったのだ。次第に彼は、自分の想いや希望を親しい存在に話せるようになり、リビングでの会話も増えていった。

真司もこの変化に気づき、心の中で思いついた。「そうか、ちょっとした一言、そして耳を傾ける姿勢が家庭を温かくするのだな」と。家族の中で、達也が「ただ聞いてくれる」存在が増えたことで、彼の心も少しずつ開かれ、自信を持てるようになり始めた。

こうして、理恵と真司は、聴くことの重要性を学び、家庭の雰囲気が次第に明るくなっていった。